院内新聞
出っ歯の早期矯正治療(予防矯正)について(5歳からの顎関節異常と顔貌の発育)
子どもの矯正治療は早いほうがいいかをよく尋ねられます。受け口は当然ですが、出っ歯についても早期に悪くなるような原因が見られるならば、早いうちに筋機能訓練やスプリントによる予防矯正を行い、その原因を取り除いておくのは悪くないとお答えします。
小舌症の人は、遺伝に関係なくあごがとても小さいように、筋肉が歯列やあごの骨の形態を維持しているのです。子供は舌を前に出すことが多く、それで平常時に舌が上あごにない場合は、上あごが狭く、前歯が舌で押されて上顎前突になったり、もっと低い位置に舌があれば受け口になってしまうでしょう。上あごがV字でせまいと、上あごのスペースに舌を入れられないので、そのまま上顎前突であごがせまい形で成長がなされます。また、口も閉じにくくなるでしょう。
患者さんの発達年齢が訓練可能で筋機能訓練を継続する素地があれば、筋機能訓練や付随する必要最小限の矯正装置などによる早期の介入がのちの歯列の維持やあごの発育に寄与すると思います。
一方で下顎の成長には下顎頭軟骨が深く関わっています。下顎頭成長を中心として下顎のオトガイは前方に発達し、将来の側貌に関わります。
成長時に上あごは上の奥歯と共に前下方に移動します。それに対して下あごはあごの関節を中心に伸びないといけません。(下図)
CT導入後に下顎枝の発育不全を有する5-10歳の若年者においてあごの関節のCT撮影を行った結果、一部の患者で関節の位置、状態異常(骨の反応性肥厚、摩耗による形態変形)を認めた症例です。
↑比較的問題の少ない下顎頭(7歳)(閉口時)
↑初診時下顎枝(ramus mandibulae)の劣成長を認める患者の下顎頭(7歳)(閉口時)
日常的に前噛みをしている結果、下顎頭の関節内での亜脱臼及び下顎頭の著しい摩耗変化、表面の軟骨が機械的刺激による反応性の骨化(screrosis)を生じている。とりわけ右側は左側に比較して関節窩の骨が菲薄化している。
ですから下顎の成長を語る上で、関節の位置の把握は必要です。(本症例は、状態からすると将来外科手術になる可能性もあります。)
関節の状態は外見、客観的な所見などでは把握できません。(クリック、開口障害、歯ぎしり、咬耗、外傷の既往は参考になります。)
上の方は中学2年生で、勉強を一生懸命にしている患者さんで、ストレスによるあごの痛みがあったのでMRIを勧めて撮りに行ってもらいました。
MRIでは、あごの関節の間に座布団のように挟まっている円盤状の軟骨を見ることができます。見てみると、
通常はintermediate zoneが下顎頭の中央に接していて、posterior bandが下顎頭の上方に来ているのですが、それらが前にずれているのが分かります。このままだとお口が開かなくなり、完全に前にずれて、骨吸収によりあごの成長や呼吸に影響を与え、今後は食事の時にあごの音がはっきりと鳴るようになり、まっすぐ開け閉めできなくなってしまいます。
いうまでもなく、そうなってからかみ合わせや矯正の治療を行うよりも、そうなる前に治療をしておいたほうが見た目の美しさについても、呼吸や咀嚼、筋緊張などの機能に対しても良いに決まっています。
CTだけでは位置が問題なくても、MRIで初めてあごの関節にダメージがあるのが分かることもあります。ですので、ROTHスプリント治療の前後には、面倒ですがMRIの撮影に行ってもらい、診断することは重要です。(保険で0-8000円)
当院では治療開始時に咬合器や状態により顎関節のCT撮影(結果問題があればMRI撮影も)を行い、関節のスプリント治療を勧めることがあります。
関節の状態を知るための咬合器