院内新聞
ワイヤー矯正とマウスピース矯正の違い
1.マウスピース矯正と適用範囲
マウスピース矯正の適用範囲については、専門家の中でも常に話題になりますが、そもそも装置としてどうなのか?ずっと使っていて何が起きるか、ワイヤー矯正ではどのようなワイヤーがあるのかをお話ししたいと思います。
マウスピース矯正(アライナー矯正)とは、パラパラ漫画のようにちょっとづつ異なったマウスピースを交換していき歯を動かしていく矯正のことです。ペットボトルのような材質上奥歯を動かしにくいため、治療だけのことを考えた場合、様々なワイヤーや付加装置を選択出来るブラケット矯正に対して優位性はありません。そのため、「ちょっとしたガタガタを治したい人」、「ガタガタが大きくても奥歯の位置関係、上下の合わせが安定している人」、「下の並びがきれいで、前歯の後退量が大きめのシンプルな出っ歯(上顎前突)の人」に対して適用となります。
また、マウスピース矯正では、資料としては歯の模型だけをベースにしているので、上、下それぞれの歯列があくまで画面上で合わさる形で並べるように製作されます。上顎、下顎それぞれの歯並びは整列されますが、いざ噛んだときに上と下が噛みあわない時があります。
そのため、顎のずれを生じていたり、歯並びが左右非対称であったり、前歯同士が大きく開いているような開咬の症例ではリラックスしたあごの位置で上下を合わせるのが難しいのです。(上下の歯列の間に太いゴムをかけて、筋肉の力でむりやりその位置で噛ませることがなされます。)
また、本来の噛む位置よりも、マウスピースの厚み分だけ高く噛み合わせが構成されるため、噛む力が強い人が2年間も使用していると歯がめり込んで、マウスピースを外した後には、噛んだ際に奥歯の上下の間に隙間ができます。マウスピース矯正の治療結果も、実は途中でワイヤーを使っていたなんていう話もまことしやかに噂されることがあります。
しかしながら、最初に述べた適用範囲を守ればマウスピース矯正は悪いものではないと思います。比較的かみ合わせが深くなく、奥歯の位置が左右対称であまり動かす必要がなく、顎の動き、顎の関節に問題の無い方であればの話です。
このように、現在マウスピース矯正は、奥歯が動きにくいことや副作用もあり完全ではありませんが、装置がかさばらず頻繁な来院が不要な「より親しみやすく手軽な矯正治療」としてのステータスを確立しつつあると思います。なお、アメリカでは数年前から医師を通さない安価で手軽なマウスピース矯正が現れた結果、再治療を求める患者が増加しており、矯正医の間で問題になっています。
2.矯正で使用するワイヤーと、その使い分けについて
歯列矯正で使用するワイヤーは多様な種類がありますが、進行状況によって使い分けがなされているというのはご存じでしょうか。下のように硬いワイヤー、形状記憶系、オールラウンド、その他の4つに分けられます。
<硬いワイヤー>
①オーストラリアンワイヤー
ステンレスに最初から焼きを入れており、非常に剛性の高い、なおかつ細い場合にはある程度の柔軟性のあるワイヤーです。歯列全体の形状を広げたい場合、歯列全体の形状をまっすぐにしたい場合、仕上げの際に有用です。
②ステンレススチール
鉄、アルミニウムの合金をステンレスといい、さびにくく軽く剛性が高い性質があります。最も伝統的なワイヤーですが、剛性が高いため現在でもかみ合わせの深さを浅くコントロールしたり仕上げの際には必須となります。ワイヤーを曲げてループを作って使用することもあります。リトラクション時(ループを曲げて少しづつ確実に歯を後ろに送る)や仕上げの際に使用します。
③エルジロイ
コバルトクロム合金のワイヤーで、剛性が高くステンレスよりも柔らかく、ばねの力が強いため痛みが少ない、生体に優しいワイヤーです。エルジロイは適度に柔らかく良いワイヤーですが流通量が少ないので、ステンレスで代用することも多いです。ワイヤーをループを作ったりして曲げて焼きを入れるとその状態で硬化し、変形しにくくなります。リトラクション時(ループを曲げて少しづつ確実に歯を後ろに送る)や仕上げの際に使用します。
<形状記憶系>
④ニッケルチタン系
形状記憶なので、様々な使い分けにより思い通り歯列を動かすことができます。複雑ながたがたでも、初期はニッケルチタンのワイヤーで治していきます。低摩擦のワイヤーです。曲げることはできません。細いものは治療初期に、太いものは仕上げの際に使用します。もともとカールさせているものもあり、これはかみ合わせの深さ、全体的なカーブをコントロール出来ます。
⑤ヒートアクチベート(ニッケルチタン)系
口腔外の温度ではふにゃふにゃですが、口腔内で入れておくとばねの力を発揮するワイヤーです。初期のがたがたの状態からまっすぐ並べるのに有用なワイヤーです。ニッケルチタンよりも復元力は劣ります。ニッケルチタン系なので曲げることはできません。
<オールラウンド>
⑥βチタン系
ニッケルチタン系の形状記憶合金で復元力が大きいにもかかわらず曲げることができ、ループでばね力を調整しながら持続的に作用させていくワイヤーです。また弱い力で持続的にトルク(歯の傾斜力)を入れることもできます。部分的に大きな段差があったりする場合に、一回入れておくだけで持続的に段差を減らしていくための一定のパワーがかかります。柔らかさはニッケルチタンよりも劣り、剛性はステンレスに劣ります。
⑦チタンモリブデン系(ゴムメタル)
ニッケルチタンに近い柔らかさと、ベーターチタンのように曲げることができる性質を持ったワイヤーです。低摩擦で持続的に作用し、ベーターチタンに近いですが、より柔らかく同じ状態でもより太いワイヤーを入れることができます。オールラウンドなのでがたがたを取るステージの後期からスペース閉鎖、トルキングステージ初期にかけて、比較的1本で適用範囲の広いワイヤーです。
<その他>
⑧マルチストランド系
ニッケルチタンの8本編みワイヤーなどが該当します。数本のワイヤーを編み込んでいます。柔らかく変形しやすいが多少の復元力があるので、仕上げ時に上下の歯を自然に噛ませたりする場合に使用します。
⑨ホワイトワイヤー
樹脂やロジウムでコーティングされた白いワイヤーで、中身はステンレス、ニッケルチタンがあります。オーストラリアン、エルジロイ、ヒートアクチベート、ベーターチタンはホワイトワイヤーがありません。ゴムメタルはオールラウンド系の中で唯一ホワイトワイヤーがありますが、非常に高額なワイヤーです。樹脂はコーティングがはがれる場合があり、樹脂による表面の摩擦があります。